大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

佐賀地方裁判所 昭和35年(わ)13号 判決

被告人 小木曾濶 外二名

主文

被告人小木曽濶を懲役一五年に

同朴周を懲役五年に

同本田善太郎を懲役二年に

各処する。

被告人小木曽濶、同朴周に対しては、未決勾留日数中各二五〇日を右各本刑にそれぞれ算入する。

被告人本田善太郎に対しては、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

押収した約束手形一通(押第四二号)の偽造部分及び手紙三通(同第四三号)はいずれも被告人小木曾濶よりこれを没収する。

(以下省略)

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人小木曽濶は昭和三一年四月頃より有楽興行株式会社より派遣され、同社と北野栄作こと金道隆とが共同経営する佐賀市松原町所在の有楽映画劇場の支配人をしていたもの、又被告人朴周は、昭和三〇年四月頃より同劇場の従業員をして居り、被告人小木曽が右劇場の支配人となつた以後は、その斡旋で右劇場のスライド広告の映写などをしていたものである。

ところで被告人小木曽は次第に北野栄作と対立、反目するようになり、同人に強い反感を抱いていたが、被告人朴周も同様北野栄作との間に円滑を欠き、同人に対し不快の念を抱いていたところ、有楽興行株式会社と北野栄作との間の契約により前記劇場を北野栄作が単独で経営することとなり、その頃同人より被告人小木曽及び同朴周を解雇する旨の広告を佐賀新聞紙上に掲載されるに及び、被告人小木曽は北野栄作に対する日頃の憤懣とあいまつて、憤激の余り、同人を殺害することによつて、前記劇場を再び有楽興行株式会社の手に戻し、自分がその支配人に返り咲くか、或いは、同劇場を他に売却する斡旋をして、その手数料を得ようと考え、昭和三三年四月頃佐賀市中町の当時の被告人朴周方において、同様北野栄作に対し憤満の念を抱いていた同被告人に決意を打ち明け、その協力を依頼した。被告人朴周は、当時金員に窮していたところから、被告人小木曽から右申出を受けるや、これに乗じて、同被告人より金員を得ようと考え、その頃同被告人に対し「自分が大村収容所に居る密航朝鮮人に心当りがあるから、それに殺させて直ぐ朝鮮に帰してしまえばよい、その為の資金として二・三〇万円準備して貰いたい。」旨を述べて、その協力を約した。

そこで被告人小木曽は、早速金策にとりかかり、かねてより知り合いであり、当時金貸等をしていた被告人本田善太郎に対し金策について協力を依頼したところ被告人本田は直ちにその協力を約した。

その後被告人小木曽は被告人朴周との約束通り、同被告人に対し、北野栄作殺害の謝礼金として三回に亘り一〇数万円を交付した。被告人朴周は、被告人小木曽より金員を受け取つたものの、その約束の履行に窮していたところ、偶々かねて自分が色々面倒をみたことのある朴柱賛が佐賀少年刑務所より出所することを知り、同人を被告人小木曽の許に派遣することによつて、その窮状から遁れようと考え、昭和三四年六月三日出所する朴柱賛を同刑務所まで迎えに行き、自宅に連れ帰る途中、同人に対し、被告人小木曽が北野栄作の殺害を計画していることを打ち明け、被告人小木曽の許に行くことを薦め、その後においても同趣旨のことを申し向けて、同年六月九日、同人を大牟田市の被告人小木曽の許に差し向けた。

以上のような経緯の下に

(一)  被告人小木曽は、昭和三四年六月九日大牟田市不知火町一丁目七八ノ二番地山口高徳方不動産仲介業事務所において、朴周より差し向けられた朴柱賛に対し北野栄作殺害計画を打ち明け「若し実行に及べば、その代償として多額の金員を提供すべく、又公判係属中の世話はもとより、刑務所出所後の生活を保障する。」旨申し向け、その殺害の実行を依頼し、同人もこれを承諾して、ここに両名北野栄作殺害について共謀を遂げ、その後被告人小木曽は、朴柱賛に対し数回に亘り、大牟田市内等で酒色の接待をなし、小遺銭を交付するなどして、屡々同人にその早期実行をうながしていたが、朴柱賛は、前記共謀に基いて、昭和三四年六月二八日午後九時四〇分頃佐賀市松原町有楽映画劇場前路上において、乗用車から降り立つた北野栄作を捕え、いきなり所携の刃渡り約二三・五糎の刺身庖丁をもつて、同人の腹部に突き刺し、同部から肺部を穿通し、肝臓に達する深さ約一五糎の刺創等を負わせ、よつて翌二九日午後一一時一〇分頃同市松原町一番地境野病院において右刺創に基づく両側肺機能障碍による呼吸困難等により、死亡させて殺害し

(二)  被告人朴周は、朴柱賛を被告人小木曽の許に差し向ければ、同人より北野栄作の殺害方を依頼され、朴柱賛が容易にこれを引き受けて、実行に当たることを予想しながら、前記のとおり昭和三四年六月九日朴柱賛を、大牟田市の被告人小木曽の許に差し向け、同被告人等の判示第一の犯行を容易ならしめて殺人の幇助をなし

第二、(一) 被告人小木曾は前記のとおり資金の調達について被告人本田善太郎に協力を求めていたが、通常の手段では到底その調達が不能であるため、両名は共謀の上他人から金員を騙取しようと企て、昭和三三年一一月下旬、大牟田市大字上内三二二番地好野みえ子方において(被告人小木曾は北野栄作を殺害する計画を秘匿し)同女に対し、まず被告人小木曾において、「銀星映画劇場社長小木曾濶」と記載した名刺を差し出し、真実は、同劇場の社長ではないにも拘わらず社長であるごとく装つて同女を信用させた上、被告人両名交々「こんど被告人小木曾が佐賀市の有楽映画劇場を経営することになり、その権利を譲り受けるのに一〇〇万円の金を準備しているが、あと五〇万円不足しているので金を貸して貰いたい。それを貸してくれたら、右映画館を経営することができるようになるから、あなたには映画館の売店と自転車預り所を経営させ、また映画館の権利の三分の一をあなたに与え、御主人も従業員に雇い入れて給料五万円を払う。又出した金は三ヶ月以内には必ず返済する。」と言う趣旨の虚偽の事実を申し向け、真実は被告人小木曾が有楽映画劇場を経営することが出来るか否かは全く不明で、従つてその映画館の売店や自転車預り所を好野みえ子に経営させたり同女の夫を従業員として雇入れたりすることは甚だ不確実であり、更に被告人等において一〇〇万円の金員を準備している事実もなく、又借用金を三ヶ月以内に返還出来る見込みもないのに拘わらず、好野みえ子をして以上の事実がすべて間違いないものと誤信させ、よつて同月二九日大牟田市曙町一〇番地福岡法務局所属公証人役場において、同女から橋本ハツ子を介し現金三四万三〇六七円、同年一二月四日同所において同女から西山ミサを介し現金二〇万円の交付を受けてこれを騙取し

(二) 被告人小木曾は更に他人から金員を騙取しようと企て、昭和三四年五月中旬頃大牟田市富士映画劇場、並びに同市不知火町一丁目七八ノ二番地山口高徳方不動産仲介業事務所等において、北野栄作を殺害する計画を秘匿し、津田亀喜並びに同人の長男津田良彦に対し、「自分は佐賀市の有楽映画劇場に一〇〇万円を注ぎ込んでいて、あと二、三〇万円あると、自分が経営することが出来るようになるのだが、その金を出してくれれば映画館内の売店をあなた達にさせてやる。」と言う趣旨の虚偽の事実を申し向け、真実は一〇〇万円を注ぎ込んでいる事実もなく、又被告人小木曾が有楽映画劇場を経営できるか否かは全く不明であり、従つてその映画館の売店を津田亀喜等にさせることは甚だ不確実であるにも拘わらず、同人等をしてそれらがすべて間違いないものと誤信させ、よつて津田良彦から同年六月一三日前記山口方事務所において、現金一〇万円、同月一七日大牟田市野添町一一六番地津田良彦方で現金五万円、同月二四日前記山口方事務所において現金三万円の各交付を受けてこれを騙取し

第三、被告人小木曾は、朴柱賛、被告人朴周と共に北野栄作を殺害した疑いで昭和三五年一月二七日佐賀地方検察庁検察官から佐賀地方裁判所に公判請求されていたものであるが、その公判の係属中、自己の立場を有利にするため、朴柱賛に偽証させようと決意し、昭和三五年二月一九日及び同年三月五日の二回に亘り佐賀市所在佐賀少年刑務所において、朴柱賛に対し多々良正夫を介して文書で「右殺人被告事件につき、公判廷で証言するときは、昭和三四年六月二五日大牟田市で小木曾と別れたときから、この殺人事件は小木曾とは関係なく朴柱賛個人の考えで実行したものである旨の虚偽の証言をして貰いたい」という趣旨の依頼をして朴柱賛を教唆し、その結果同人をして同年五月一六日及び同年六月二九日の各公判期日に同裁判所の公判廷において前記被告事件の証人として宣誓の上、検察官、弁護人、裁判官からなされた尋問に対し前記依頼の趣旨に副う虚偽の陳述をさせ、以つて偽証を教唆し

第四、被告人小木曾は、金員に窮した結果約束手形を偽造し、その割引名下に金員を騙取しようと企て、昭和三四年一二月三一日頃大牟田市本町一丁目付近の某喫茶店外一個所において、行使の目的をもつて約束手形用紙一枚の金額欄に金一〇万円、支払期日欄に昭和三五年一月三一日、支払地並びに振出地欄にそれぞれ大牟田市支払場所欄に福岡相互銀行大牟田支店、振出日欄に昭和三四年一二月三〇日と自筆で記入し、更に振出人欄に、あらかじめ偽造して置いた「大牟田市大正町一丁目一ノ二五、セントラル映劇、力武一生」と刻したゴム印並びに力武と刻した印章をそれぞれ押して、力武一生振出名義の約束手形一通を偽造し、同日、同市有明町五四番地アサヒタクシー株式会社において、内川文一を介して瀬戸ハツヨに対し、右偽造手形を真正に成立したもののように装つて呈示行使してその割引方を依頼し、同女をして右手形が真正に成立したものと誤信させ、よつて即時手形割引名下に同女から右内川文一を介して現金九万五千円の交付を受けてこれを騙取し

第五、(省略)

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)(略)

(裁判官 佐藤秀 矢頭直哉 長崎裕次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例